、水に流されたのでせう。影も形も見えませんでした。
「驚いた/\、尾がなくなつたら、どうして他の悪魔を防げるだらうか。」
 大悪魔は心配しながら、自分が拵《こしら》へた、大きな川を幾つも/\跳び越えて、自分の家に帰りました。
 けれども他の悪魔から攻撃を受ける心配はなくなつてゐました。といふのは大悪魔の敵はみな大抵川に溺れて死んでしまつたからでした。で後に残つた僅《わづ》かの悪魔に、仲間同志の喧嘩は決してするものでない。それよりも人間がいまに出来たら、その魂をくさらすことに力をいれるがよいと教へました。他の悪魔どもゝ今度はよく分りましたから、もう手向ひせず、大悪魔の家来になりましたので、大悪魔の子孫はだん/\数がふへて、地上に栄えました。けれどもそれからは皆尾がなくなりましたので、悪魔の姿は大変人間にまぎらはしくなり、その為《た》め愚な人間は悪魔と友達になつて堕落しました。たゞ賢い人の眼《め》にだけは、その無い尾がちやんと見えるので、どんなにうまく化けても悪魔の正体はすぐ分るのです。



底本:「日本児童文学大系 第一一巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
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