やうに、きつと甘いところを添ふべきことになつてゐるのだ。自分もクロポトキンだつたか誰かゞいつたやうに、ロムブロオゾオの所謂る罪人型の人間は先天的にはゐないものと信じてゐる。けれども悪いものを悪いまゝに描き、又悪いことを悪いと痛撃するに何の容赦も要らないものと思つてゐる。或は言ふ人があるかも知れない。お前は同じ人間に善と悪とが対立してゐることを忘れて、只その悪ばかりを見るからいけないのだ。そんな見方は人間を汚涜《をとく》し、生命を殺すものだと。自分もそれを思はぬではない、いやそれを思へばこそ恥しくも、恐しくもなるのだ。然しそれでも自分は今日の正義の声は余りに、かしましい拙悪な吹奏者の喇叭のやうに、その底に或る不協和な、擽《くすぐ》つたい何ものかゞ聞きとれると白状しないではをられない。自分は人性を善なりと大掴みにきめてかゝれないと同時に、その反対に悪なりとも断言することを躊躇するものだが、誰も彼も皆正義人道の擁護者らしく見えるときに、自分の汚ない心は皮肉な嘲笑を催して、それぢや是を見ろと現実暴露といふ昔|流行《はや》つたアナクロニズムをやつてみ度くなる。そしてあらゆるものがカリカチユア化し
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