殺死[#「殺死」に丸傍点]、斬[#「斬」に丸傍点]、夫人の心状、之を掌に指すが如し[#「之を掌に指すが如し」に白丸傍点]『切つても[#「切つても」に白丸傍点]可[#「可」に二重丸傍点]』一語傍人を悚殺す[#「一語傍人を悚殺す」に丸傍点]。
遂に最後の惨局に到る、
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『痛みますか。』
『否、貴下だから、貴下だから。』
恁言懸けて伯爵夫人は、がつくりと仰向きつゝ、凄冷極り無き最後の眼に、國手をぐつと瞻《まも》りて、
『でも[#「でも」に丸傍点]、貴下は[#「貴下は」に丸傍点]、貴下は[#「貴下は」に丸傍点]、私を知りますまい[#「私を知りますまい」に丸傍点]!』
謂ふ時晩く、高峰が手にせる刀に片手を添へて、乳の下深く掻切りぬ。
醫學士は眞蒼になりて戰きつゝ、
『忘れません[#「忘れません」に丸傍点]。』
其聲、其呼吸、其姿、其聲、其呼吸、其姿。伯爵夫人は嬉しげに、いとあどけなき微笑を含みて、高峰の手より手をはなし、ばつたり、枕に伏すとぞ見えし、唇の色變りたり。
其時の二人が状、恰も二人の身邊には、天なく、地なく、社會なく、全く人なきが如くなりし。
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