り]
是に到るまで讀者をして手卷を離す能はざらしむ[#「是に到るまで讀者をして手卷を離す能はざらしむ」に傍点]、
渠が外科室は成功せるもの[#「渠が外科室は成功せるもの」に白丸傍点]。
渠は又浪子の諧謔を能くす。
渠は又美の力を識認す、渠は伯爵夫人の美の力を、浪子の口を藉つて語らしめて曰く、
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『私もさ今まではかう[#「私もさ今まではかう」に白丸傍点]、ちよいとした女を見ると[#「ちよいとした女を見ると」に白丸傍点]、つひそのなんだ[#「つひそのなんだ」に白丸傍点]。一所に歩く貴公にも[#「一所に歩く貴公にも」に白丸傍点]、隨分迷惑を懸けたつけが[#「隨分迷惑を懸けたつけが」に白丸傍点]、今のを見てからもう/\胸がすつきりした[#「今のを見てからもう/\胸がすつきりした」に白丸傍点]。何んだかせい/\とする[#「何んだかせい/\とする」に白丸傍点]、以來女はふつゝりだ[#「以來女はふつゝりだ」に白丸傍点]。』
『でも[#「でも」に白丸傍点]、あなたやあ[#「あなたやあ」に白丸傍点]、と來たら何うする[#「と來たら何うする」に白丸傍点]。』
『正直な處[#「正直な處」に白丸傍点]、私は遁げるよ[#「私は遁げるよ」に白丸傍点]。』
[#ここで字下げ終わり]
美に對すれば俗念を絶つ[#「美に對すれば俗念を絶つ」に丸傍点]、鏡花は其消息を解するものか[#「鏡花は其消息を解するものか」に丸傍点]、吾人をして其の欠點を指摘せしめば、豈に指摘すべき處を知らざらん哉。
然れども此落寞たる文界に偶々新進作家の出つるに當りて[#「然れども此落寞たる文界に偶々新進作家の出つるに當りて」に傍点]、餘り多くの注文を持ちこむで其鋭氣を沮むは[#「餘り多くの注文を持ちこむで其鋭氣を沮むは」に傍点]、决して之を歡迎するの道にあらず[#「决して之を歡迎するの道にあらず」に傍点]。
然れども渠をして小成に安んぜしむるは吾人の本意にあらず、修養蘊蓄徐ろに後來の大成を期せんこと屬望に堪へず。



底本:「鏡花全集 卷二 月報2」岩波書店
   1942(昭和17)年9月30日第1刷発行
   1973(昭和48)年12月3日第2刷発行
初出:「國民之友」
   1895(明治28)年7月23日
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2005年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このフ
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