……。
秀「オヤお咄しを伺がっておりましたうちに。いつか日がくれかかりました。私どもはお先へご免をいただきます。葦男さん参りましょう。
宮「そうですか。なるほどあまり遅くなるは。若い人にはよくありますまい。さようならちとお遊びにおいでなさい。そしてこの篠原様へもちっとあがって。西洋風俗や学問のお高論《はなし》をお伺いなさい。こんどおつれ申しましょう。
秀「どうか願いとうござります。誠に失礼を致しました。さようなら。
篠「さようなら」ともろともにおしき袂《たもと》を分ちけり。アアこの佳人才子の出会こそ。月老氷人《むすぶのかみ》のなかだちで。好《こう》えんを結ばせ給うならめと。ただもろともにいとおしと。思う心を色にも出さず。心にしめて別れ行く。なかなかに傍《はた》の見る目もゆかしかるべし。
宮「どうですお気に入ったようですネ。君のお説にかなっている婦人でしょう。僕は他にあのくらいな感心なのはあるまいと信ずるヨ。
篠「エ。そうさネエ。
宮「そう冷淡なのがお気に入った証拠だ。どうです伯楽になっては。
篠「どうして向うの気位が高いから。
「ナアニ願ったりかなったりです」と出しぬけにいわれてふりか
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