おなじようにはなじろみて言葉なし。さるぞとはしらぬ葦男はまめまめしく。サアこちらへ。とすすむれば。宮崎は腰をかけ。
宮「篠原君おかけなさいな……。お秀さん。あのあっちの紅葉の下に落ちていましたが。この歌はもしあなたのお詠《えい》ではござりませんか。
秀「オヤマアどうして」と少しはじらう風情あり。
宮「実に今までこのくらいに和歌のお出来なさることはしらなかったが。あなたなどは実に教育も充分あるし。家庭のおしえは自分みずからおさめておいでなさるから。こうしておいでなさるは実に何ですけれど。人にも知られんで散らしてしまうようなことはない。千里の馬も伯楽《はくらく》がどうとやらといいます。ネエ篠原君。
篠「実にそうサ。なんでもひそんでいる方がおくゆかしい。
宮「ソリャそうだが。あまり自分で自分を。いやしいもんだ何も出来ないもんだ。と卑下し過ぎてもいけないが。いく分か自分の気を高尚にもっていて。そうして自負せず。生意気にならないようにするのが学問の力サ。ネエーお秀さん。
秀「誠にさようでござりましょうネエ。私も学問を致して道理とやらがしりとうござりますけれど。
宮「イヤどうも欲の深いお秀さんだワ
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