父《おやじ》があの様子ゆえ。外へも出られない始末だから。おもうようにはいかないのサ。二三日跡からめっきり様子がいいから。今日お誘い申したのサ。
宮崎「御洋行中は毎度御書を下さいましたが。例の筆無性《ふでぶしょう》で三度に一度の御返事もあげませんでしたが。僕が東京の現況を新聞体にて御報道致した御返事に。日本人はメスメリズムにばかされた人のように。西洋人の指先次第。いろいろなまねをするとの御論でしたが。伺っていた御持論とは大層ちがいました。世の人は洋行すると西洋好きになるが。君には嫌《きら》いになったのかと。お知己の人たちは怪しみました。
篠原「なるほどお怪しみもござりましょう。僕が五年の洋行で得るところ。とはちと大げさのようだが。マアそこのところばかりサ。オオなんだ氷が解けてもう残りずくなになった。マア一杯やりたまえ。オイ船頭どこへか附けて氷を二斤ばかり買ってくれんか。
宮崎「ときに篠原君。君が帰朝の後は早速何のお咄しだろう。ネー斎藤君。御同前に祝筵《しゅくえん》にあずかろうとたのしみにしているのだが。尊大人の御所労でまだそこどこではないのかネ。
斎藤「実に君はあやかりものだ。尊大人は従
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