は西洋風を持ち出すし。権妻《ごんさい》を置きたい時には昔風を持ちだすし。かたでらちくちゃアありゃアしねえとよ。だがお互いのようにレコがなくッちゃア。道楽時代もあてになりゃアしねえアハハ」何たわいなき咄しの内勝手の方に。
「山中さんのお立ちですよ」勤はいそぎ立ち上り。それかあらぬかさまざまに。くるう心のこま下駄も。音たてさせじと忍び足。庭の方《かた》へぞかえりける。

     第八回

 暑さは金《かね》をとかすともいうべきほどの水無月《みなづき》に、遊船宿と行燈《あんどう》にしるせる店へ。ツト入り来たりし男年ごろ二十四五なるべく。鼻筋とおり色白く。目もとは尋常に見ゆれども。どこともなくするどきところありて。いわゆる岩下の電《いなずま》ともいわまほし。口はむしろ小さすぎたるほどなるに。いささか八の字の鬚《ひげ》をたくわえたり。身長《みたけ》は人並みすぐれたるが。縞《しま》フラネルの薄きもて仕立てし。ジャケットに同じき色のズボンをはき。細きステッキを手にもちて。パナマハットの大形なるを頂き。わざと蝙蝠傘《こうもりがさ》はもたざりけり。
女房「オヤマア駿河台《するがだい》の若殿様。お久しぶ
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