は。公然《おおやけ》に再縁してはじざるときくものを。何をくるしみてか。松ならぬ木を松めかして。時ならぬ寄生木《やどりぎ》の生《お》い出でけん折。色かえぬ操の名にも似ず。顔に紅葉《もみじ》するははずかしからずや。

     第三回

 巍々《ぎぎ》たる高閣雲に聳《そび》え。打ち繞《めぐ》らしたる石垣《いしがき》のその正面には。銕門《てつもん》の柱ふとやかに厳《いか》めしきは。いわでもしるき貴顕の住居《すまい》。主人《あるじ》の公《きみ》といえるは。西南|某藩《それはん》の士《さむらい》にして。維新の際《とき》人に勝《すぐ》れたる勲功のありし由は。門に打ちたる標札に。従三位《じゅさんみ》子爵|某《なにがし》と昨日今日|墨黒《すみぐろ》に書きたるにても知りぬべし。さればその昔し尊王を唱え攘夷《じょうい》を説き。四方に奔走せし折は。西洋文明の国々をも。醜夷と卑しめ黠虜《かつりょ》と罵《ののし》りし癖の。いま開明の世運に際するも。まだぬけかねたるを。同じ藩士にて。今内閣に時めきたる親しき人々が。かくてはついに世の風潮に後《おく》るべし。官職を帯びて洋行し。西洋各国を巡視せば。必ず悟るところある
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