をしているとらちくちがあかない。巡査でもだれでもよんできておくんなさい。
とだんだんいい募れども。浜子はもと深窓に生いたちて。かかるかけ合いなどは夢にも聞きたることすらなければ。ただただ同じことのみいい。ついにはなき出でぬべきけしきなれば。執事の三太夫はとんで出できたり。
三太「どこのお神さんだか失礼な方だ。もうもうお姫様おなき遊ばしますな。なおつけあがりますから。エおかみさん。今は殿様も御不在だし。わけがわからんから。また御在宅の時においでなさるがよい。わが輩が委細の趣は申し上げるから。
 これにてようようお貞もしずまり。ここまでこぎつけておけば。あとはゆるゆるが上策なりと思いてか。三太夫になだめらるるを幸いに。じゃじゃばりながら帰り行く。
 はま子はあとになき声をふるわせながら。
浜「だれでもはやくおむかいにいッておくれ。ヨウ早く。
 かくてお貞はその夜きたれるのみか。朝に夕にきたりて悪口雑言をいいののしれど。浜子もおろかならねば。家来にもいいふくめて。ただるすとのみことわりていたりしが。その後より山中の様子もうってかわり。三日にあげずいずかたへか泊りきたり。ついにははま子のしらぬまに。うでわ。ゆびわその他はま子の身につきたるものも。いつのまにや持ち出でたれば。ようやくはま子も心づきて様子をさぐるに、全くお貞とはもとより夫婦同様になしいたれど。はま子の恋慕を幸いに婚礼なし。その財産を押領《おうりょう》なすべきたくみなれば。ついにはあの方にのみ多くありて。物見遊山なども相のりをなして。これみよかしとわが家の前を通行なすなど。浜子はくやしさやるかたなきものから。もとはおのれがなせしわざと。さとればさすが里方篠原家への聞えもはばかり。執事はじめ付きそえきたりしはしたまでに。口留めをなしおきたれど。隠れたるより顕《あら》わるるはなく、とく勤にも聞えければ、なお委《くわ》しく調べたるに。家屋敷までもいつのまにや。抵当とやらんに質入れし。大金を借り出《いだ》したるなどのことまでしれたれども。正ははやくも官を辞し。とくにお貞を伴ないて。いずかたへかちくてんしたり。浜子はなまじいに交際ひろがりしより。かかる評判も随《したが》いてたかければ。今さらほぞをかむのみにて。日々に涙にくれいたり。

     第十一回

 ちとおかけなさい。一ぷくあがっていらっしゃい。とよぶ女の声。こなたの角にはかけ合いに。万年働くかーめのっこ。きくはいのかめのこよりどったよりどった。とよぶ声いともかしましき。滝の川の秋の暮。人もようよう散れかかる紅葉《もみじ》のかげのかけ茶屋に。しばしやすらう二人の男。人品いやしからざるが。立ち上りながら。
男「篠原君すこし向うの方へブラブラしちゃアどうだ。君は尊大人のおなくなりなすってからは。めっきりどうも体がよわったようで。気が引き立たぬからいけない。そりゃア気のすまぬところもあろうが。どうもなったことならしかたがないサ。はま子さんも断然さとって。実に今は後悔のようだ。僕も昨日横浜に用があったからおたずね申したら。実に面目ないといって涙ぐんでの咄しも。実に真成のクリスチャンになりきってしまって。もとのような様子はすっかりなくなったヨ。
篠「あれは全く妹がわるい。当人も実に心得違いをしたと。しんに後悔をして。ああしておとなしくしていても。母に公然と逢いに来るわけにもゆかず。かんがえると実にふびんサ。
男「ソリャアもっともだけれど。君は養父母の義理を思っているからだが。君がそうふさいでいて。肺病にでもなってはなお不孝です。こんなことをいうとおかしいが。僕もずいぶん気の小さい方で。少しくだらんことが気になると。いてもたってもいられないようだったが。斎藤が無理やりに母に進めて。あの服部の浪子を妻《さい》にしてから。うちへかえってもかんがえるようなことはないのさ。何か読書でもしていて気の尽きる時には。琴を弾《ひ》かせたり茶を入れさせたり。少しは文学の相談もしたり。よほど気の晴れることがある。君なんぞは御養母《おっかさん》もああいう風だし。気のむすぼれるももっともです。干渉するようだが僕がせわをしようから。レディ篠原をこしらえ給えナ。
篠「実にあの浜子の一件の時分は激して。あれに優《まさ》る妻をとも思ったが。今ではただ気のどくだ不便《ふびん》だということばかり脳にあって。ちっともそんなことはかんがえん。アーなんだか咄しが理に落ちたじゃアないか。
男「ムーン。サア行こう。ヤアヤアなんだか書きちらかしてある。発句かネ。
 紅葉みにくる人もみな赤い顔。
 アハハハハ。くだらないことを。こういうところには和歌はまれだネ。
篠「まち給えヨ。あすこにおちているが和歌かしらん。おや鉛筆でもきれいにかいてあるヨ。
 いたずらに散りやはつらん紅葉《もみじ
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