うすれア人の噂も七十五日。いつかは消えてしまうのに。あの悪婆にそそのかされて。馬鹿ナ……。とんだことをやらかしたのだ。全体あの仕事はあいつの体にない役だ。一体|色悪《いろあく》というよりは。むしろつッころばしという役の方が適当で。根っからいくじのないのサ。初めから目的もなんにもなしで。初手は故大人の御気嫌をとろうということばッかりで。浜子さんを一番だまかそうという気があったでは決してない。あの婆々《ばば》アの方だっても。向うの閨淋《ねやさび》しいところから何とか言われたので。前方から世話になっていて。まさかに恥もかかせられないとかいう。ひょんな人情ずくもその内の一分子サ。だがちょっと手を出したからには。モウあの悪婆に制せられて。トントン拍子にあれまでの仕事をしたのサ。一体人間というものは。己れに守るところがなくって。ただ外物に従って周旋すると。心にもない大悪事をしでかすもので。山中もマアそんなものサ。大きくいえば漢の荀※[#「或」の「丿」に変えて「彡」、第3水準1−84−30]《じゅんいく》が曹操《そうそう》におけるがごとしともいおうかネ。あの西郷も僕にいわすれば。やっぱりそうだ。薩摩《さつま》の壮士に擁せられ。義理でもない義理にからまれて。心にもなく叛賊《はんぞく》の汚名を流したは。守るところを失なったといわざるを得ずだ」少し小声にて m《エム》 も大分持ち出したそうだ。このごろは婆々にめしあげられて。いよいよつきだされたかもしれない。そうしてみると浜子さんはいよいよかあいそうだ。と場しらずの物語に。人々は目と目を見合わするのみ。いらえさえするものなければ。ようやくに心づきごまかしかたがた酒興に乗じ。かねて覚えの謡曲《うたい》一節《ひとふし》うたい出でたるおりから。
宮崎「実に姻縁《いんえん》は不思議なもので。愚妻などもかねてより近くは致しおりましたが、こうなろうともおもいませず。また君には……。ウーンあんなこんなかねて期せざる御縁辺はお互いにネ。
勤「さよう今までのことをかんがえると随分小説めくで。今夜の祝宴なんぞは。かのめでたしめでたしとやるところだ」と語る声斎藤の耳に入りたれば。大きな声にてめでたしめでたし。
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附けて言う。松島葦男はその後大学に入り。工学を修め。卒業の後。ある一大土木の工を督し。人に名を知らるるに至り。後に宮崎一郎の
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