が王様のためにそれを取って来て上げることを引受けはしたものの、石にされてしまうことを心配していることなどを話したのです。
『石になっちゃ可哀そうだ、』とクイックシルヴァは人の悪いほほ笑みをうかべて言いました、『尤も、君は大変立派な大理石の像になるだろうがね。そして、ぼろぼろになってしまうまでには、何百年もかかるだろう。しかし大抵誰でも、石像になって何百年も立っているよりは、数年間でもいいから青年でいたいからね。』
『ええ、全くその方がいいですよ!』とパーシウスは、また目に涙をうかべながら叫びました。『それに、もしもかわいい息子が石にされてしまったら、僕の大事なお母さんはどうするでしょう?』
『まあ、まあ、そんな縁起でもないことにはしたくないもんだ、』とクイックシルヴァは元気づけるような調子で答えました。『もし誰かが君を助けることが出来るとすれば、わたしを措《お》いてないのだ。今じゃ恐しいような気がするけれども、君がその冒険を無事に切り抜けるように、わたしの姉とわたしとが出来るだけ骨を折って上げよう。』
『あなたのお姉さんですって?』とパーシウスは訊《き》き返しました。
『そう、わたしの姉だよ、』と見知らぬ人は言いました。『本当に、彼女は大変聡明なんだ。それにわたし自身としても、大した智恵はないが、どんなことにぶっつかっても、途方に暮れるというようなことはまずないね。もし君が大胆に、そして細心になって、わたし達の言うことをきいてれば、まだ当分は石像になるなんて心配は御無用だ。しかし、君は先ず第一に、君の盾を、鏡のようにはっきりと顔が映るようになるまで、磨かなくてはならない。』
これはまた、冒険の手始めとしては随分変なものだなと、パーシウスは思いました。というのは、盾などというものは、顔が映って見えるほど光ったりしているよりも、ゴーゴンの真鍮の爪から彼を護《まも》るだけの丈夫さのある方が、ずっと大切だと彼は考えたからでした。しかし結局彼よりもクイックシルヴァの方に深い考えがあるのだろうと思ったので、彼はすぐ仕事に取りかかりました。そして大変精を出して、熱心に盾をすり磨きましたので、すぐそれは秋のお月様のように光って来ました。クイックシルヴァはそれを見てにっこりとして、よしよしといったように、うなずきました。それから、自分の短い、反《そり》のついた剣をはずして、パーシウスが前から下げていた剣の代りに、それを彼につけてやりました。
『君の目的に役立つ剣は、わたしの剣のほかにはないのだ、』と彼は言いました、『その刃《は》はこの上もなく切れ味がよくて、鉄でも真鍮でも、まるで細い細い小枝を切るように切れてしまう。さあ、これから出かけよう。お次は、三人の白髪《しらが》の婆さん捜しだ。その婆さん達が、水精《ニンフ》の居処《いどころ》をわれわれに教えてくれるんだからね。』
『三人の白髪婆さんですって!』とパーシウスは叫びました。彼は冒険の途中に、また新しい面倒が起ったとばかり思ったからです。『一体その三人の白髪婆さんって誰でしょう? 僕はそんな婆さん達のことは聞いたこともありませんが。』
『彼等は三人の大変奇妙なおばあさん達なんだ、』とクイックシルヴァは笑いながら言いました。『彼等は仲間でたった一つの目と、たった一つの歯としか持っていない。その上、星明りか、夕方の薄闇の中かで見つけなければならない。というのは、彼等はお日様やお月様が出ている時は、決して姿を見せないからだ。』
『しかし、』とパーシウスは言いました、『僕はどうしてそんな三人の白髪婆さんのことで暇をつぶさなければならないんでしょう? すぐ、あの恐ろしいゴーゴン達を捜しに行った方がよくはないでしょうか?』
『いや、いや、』と彼の友達は答えました。『君はゴーゴン達の居る所へ行く迄には、ほかにいろんなことをしなければならないんだ。さしあたり、これらのおばあさん達を捜すほかないのだ。そしてわれわれが彼等に出遇えば、もうゴーゴン達からあまり遠くない所へ来たと思って間違いないんだ。さあ、出かけようじゃないか!』
パーシウスは、この時までに、彼の道連れのかしこさを大変頼みに思うようになっていましたので、もうその上文句は言わないで、すぐにでも冒険旅行に出かけていいと答えました。そこで彼等は出発しました。そして可《か》なり速い足どりで歩いて行きました。それが実際また、あまり速かったので、パーシウスは足早《あしばや》の友達クイックシルヴァについて行くのが、少し難儀《なんぎ》になって来ました。実をいうと、彼はクイックシルヴァが翼の生えた靴をはいていて、勿論そのおかげで、彼の足が不思議に早いのだというような、妙なことを考えたのです。それからまた、パーシウスが目の隅っこから、横目でクイックシルヴァを見ると、
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