すが。
神様が実にうまく工夫して、地べたにつく度に前より十倍も強くなるという、おそろしい巨人をおつくりになっていましたが、ハーキュリーズがそれに出くわしたのは、たしかにこの旅行の時でした。その巨人の名前は、アンティーアスといいました。そんな男と闘《たたか》うのは大変面倒なことだということは、君達にもよく分るでしょう。というのは、彼は相手がそっとしておいてくれるよりも、度々なぐり倒してくれた方が、一層強く、きつく、武器を使うことも上手になって、起き上れるというわけなんですから。そんなわけで、ハーキュリーズが彼の棍棒で、その巨人をひどくなぐり倒せばなぐり倒すほど、勝つ見込みがなくなってくるような気がしました。僕はちょうどそんな風に、やっつけられればやっつけられるほど、一層いきり立って来るような人と議論をしたことは時々あるが、なぐり合いをして見たことはありません。さて、ハーキュリーズが、これならばこの喧嘩に勝てるということが分ったのは、アンティーアスの足が地べたにつかないようにさし上げて、そのまま彼を締めて締めて締め抜いて、とうとうおしまいに、彼の大きなからだから、力をすっかりしぼり出してしまうという手一つでした。
この闘《たたか》いに勝つと、ハーキュリーズは旅をつづけて、エジプトの国へ来ました。そこで彼はとりこになりましたが、もしもその国の王様を倒して、逃げ出していなかったら、彼の方が殺されてしまうところでした。アフリカの沙漠を通り抜けて、一生けんめい道をいそぐうちに、彼はとうとう大きな海の岸へ出ました。そして、ここまで来ると、大波の頭の上でも踏んで行けない以上は、当然彼の旅もおしまいになりそうでした。
彼の前には、泡立ち、湧き返る、かぎりない大海のほか、何もありませんでした。しかし、彼が水平線の方を見ると、ずうっと遠くに何か、ふと目についたものがありました。それは大変きらきらと輝いて、まるでちょうど地のはてに、昇るか落ちるかする円い太陽を見るようでした。それはたしかに、だんだんと近づいて来ました。というのは、この不思議な物は、刻一刻と大きくなり、光を増してくるからです。とうとうそれが大変近くなったので、ハーキュリーズは、それが金か又はよく磨いた真鍮で出来た、大きなお椀かお鉢だということが分りました。それがどうして海へ流れて来たかということは僕も知りません。とにかく、それは立騒ぐ大波にもまれていました。しかし波はそれを上下にゆりうごかして、泡立った波頭《なみがしら》がその胴にぶっつかって盛《も》り上がるだけで、しぶきは決してそのお椀の縁を越えることはありませんでした。
『僕は今まで 沢山の巨人を見て来た、』とハーキュリーズは考えました、『しかし、こんな大きな椀で酒を飲まなければならないほどの巨人を見たことはない。』
そして、本当に、それはどんなに大きな椀だったことか知れません! それはとても――とても大きくて――いやしかし、つまるところ、僕はそれがどんなに途方もなく大きかったかを言いかねる位です。内輪にいっても、それは大きな水車の輪の十倍もあったでしょうか、そして、全部が金《かね》で出来ていたにも拘らず、小川を流れていくどんぐりの皿よりももっと軽々《かるがる》と、盛《も》り上がって来る磯波の上に浮かんでいました。波がそれをごろごろ転《ころ》がすように押して来て、とうとう、ハーキュリーズの立っているすぐ近くの岸に、その底がつきました。
そうなるとすぐに、彼はどうすればいいかが分りました。というのは、彼は今までに幾つとなくめざましい冒険を仕遂げて来たので、何か少しでも普通と違ったことが起った時には、いつでもそれに応じた処置のとり方を相当よく心得ていたからです。このおそろしく大きな椀が、ハーキュリーズを乗せて、ヘスペリディーズの庭へと海を渡って行くために、何か目に見えない力によって海に浮かべられて、こちらへ流されて来たのだということは、火を見るよりも明らかでした。そこで、すぐさま、彼は縁を乗り越えて、その中にすべり込み、そこに獅子の皮を敷いて少し横になって休むことにしました。彼はあの川の縁で娘達に別れてからというものは、今までほとんど休まないで来たのでした。彼はうつろな椀のまわりに、こころよい、響のいい音を立ててぶっつかりました。椀は軽くゆらゆらと揺れて、その動揺があまりいい気持なので、ハーキュリーズは揺られながら、たちまちこころよいねむりにさそわれて行きました。
彼のうたたねが相当長くつづいたと思ううちに、彼の乗っている椀が、一つの岩に触れて、そのために、金か真鍮か、とにかくその椀が出来ている金《かね》が、たちまち、どんなに大きな音をたてる教会の鐘よりも百倍も大きく鳴りひびきました。その音で目をさましたハーキュリーズはすぐ
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