ゃありませんか! あなたのひどいいとこの王様なんか、かまうものですか! あたし達は、百の頭をしたあの竜なんかに、あなたをたべさせたくないのです!』
 見知らぬ人は、こんな風にいろいろといさめられて、じれったくなって来た様子でした。彼は何の気もなく、彼の大きな棍棒を上げて、その辺の、半分土に埋まった石の上にどんとおろしました。そうして何の気もなしに、とんとやっただけで、その大きな石はがらがらにこわれてしまいました。こうした巨人のような力わざをやるにも、その見知らぬ人には、娘達の一人が、花で姉妹の頬をなでるほどの力しか要らなかったのでした。
『こんな風にどんとやると、その竜の百の頭の一つくらいは、ぺしゃんこになると思いませんか?』と彼は、にこやかに娘達を見ながら言いました。
 それから彼は草の上に坐って、彼の身の上話、といっても、最初彼が戦士の真鍮の盾の上で育てられてからこの方、おぼえているだけのことを彼等に話しました。彼が盾の上にねていた時、二疋の大きな毒蛇が床《ゆか》の上を這《は》って来て、おそろしい口をあけて彼を呑もうとしました。彼はまだ幾月にもならない赤坊でしたが、そのおそろしい蛇を一疋ずつ、小さな両手につかんで、それらを締め殺してしまいました。彼はまだほんの少年の頃、彼が今その大きな、もじゃもじゃの毛皮を肩にかけている獅子と殆ど同じくらい大きなやつを退治ました。その次に彼がやったのは、ハイドラというおそろしい怪物とのたたかいでした。それは九つも頭があって、その一つ一つに、とても鋭い歯をもっていました。
『だって、ヘスペリディーズの竜には、百も頭があるんですよ、』と娘達の一人が口を入れました。
『それでも、』と見知らぬ人は答えました、『僕は、そんな竜が二疋でかかって来ても、ハイドラ一疋よりも、楽《らく》だと思うなあ。というのは、ハイドラと来ちゃ、一つ頭をちょん切《ぎ》ったと思うと、すぐそのあとから二つの頭が生えて来るというわけですからね。その上、どうしても死なないで、切り落したあとでも長い間、同じような激しさで、いつまでも咬みに来るという頭が一つあるんです。だから僕は仕方なしに、それを石の下に埋めて来ましたが、そいつはきっと今でも生きているでしょう。しかし、ハイドラの胴体と、ほかの八つの頭とは、もうこの上害をするようなことは決してないでしょう。』
 娘達は話が大分長くなりそうだということを察して、見知らぬ人がおしゃべりの間にとって食べられるように、パンと葡萄との食事を用意していました。彼等は喜んでこの簡単な食事を彼にすすめました。そして、彼一人でたべるのがきまりが悪いといけないからというので、娘達も時々、おいしい葡萄をつまんで、薔薇色の口に入れました。
 旅の人はつづいて、彼が一年間ぶっ続けに、息を入れるために休みもしないで、大変足の速い牡鹿を追っかけて行って、とうとうその叉《また》になった角をつかまえて、生捕《いけどり》にして家につれて帰った話をしました。それからまた彼は、半分人間で半分馬みたいな、とてもおかしな人種とたたかって、こんないやな形のものが、この先、人の目につかないようにするのは自分の務めだというような考えから、それらをみんな退治てしまいました。いろいろそんなことをした上に、彼は或る厩《うまや》の掃除をしたことを大変手柄のように言いました。
『そんなことが大した手柄だとおっしゃるんですか?』と若い娘の一人が笑いながら訊きました。『田舎のどんなお百姓だって、それ位なことはしますわ!』
『もしもそれが普通の厩だったら、僕はなにもわざわざこんな話をしやしませんよ、』と見知らぬ人は答えました。『しかしそれはとても大仕事で、もしも僕が川の流れを、その厩の入口へ向けるといううまいことを考えなかったら、その掃除に一生かかったかも知れません。ところが、川のおかげで、すぐ掃除が出来てしまったのです!』
 美しい娘達がいかにも熱心に聞いているのを見て、彼は次には、幾羽かの怪鳥を射落したこと、野牛を生捕《いけどり》にして、また放してやったこと、沢山の野生の馬を馴らしたこと、それから、アマゾン女族の戦争好きの女王ヒポリタを征服したことなどを話して聞かせました。それからまた、ヒポリタの魔法にかかった帯を取上げて、それを彼のいとこの王様の娘にくれてやったことも話しました。
『それは女達を美しくするヴィーナスの帯ですか?』と、娘達のうち一番きれいな子が尋ねました。
『いいえ、』と見知らぬ人は答えました。『それはもと、ローマの軍神マアスが剣をつるしていた革帯です。ただ、それを締めると、勇気と元気とが出るのです。』
『剣をつっていた帯のお古《ふる》ですか!』と、その娘は首をしゃくって叫びました。『それじゃ、あたし欲しかあないわ!』
『そりゃそ
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