が眠っている間は、あとの五十が見張りをしているという話なんですから。
 僕なんかから見ると、中まで金の林檎だからといって、それほどの危険をおかす値打はなさそうに思います。それがまた、実においしい、やわらかい、おつゆのたっぷりある林檎だったら、話は別です。その時には、たとえ百の頭を有《も》った竜がいたところで、それを取ろうとすることは、多少の意味があったかも知れません。
 しかし、前に言った通り、あまり長い平和と休息にあきて来ると、ヘスペリディーズの庭を捜しに行くということが、青年達には全く普通のことだったのです。そして或《ある》時、この冒険が一人の勇士によって企てられましたが、この勇士と来ては、この世へ出てから、ほとんど平和や休息を味わったことのないような荒武者でした。ちょうど僕がこれから話をしようと思っている頃のことでしたが、彼はとても大きな棍棒を手に持ち、弓と箭筒《やづつ》とを肩にかけて、気持のいいイタリーの国中を旅して歩いていました。彼はこれまでに現れたこともないような、大きな、はげしい獅子を自分で退治て、その皮をはいで着ていました。そして、大体に於て、彼は親切で、度量があって、人物も高尚でしたが、心にはまるでその獅子のように激《はげ》しいところが大いにありました。彼は旅をつづけながら、始終、あの有名な庭へはこう行っていいのかどうかを尋ねました。しかし、田舎の人達は誰もそんなことは一向知らなかったので、多くの者は、もしも、その見知らぬ人がそんな大きな棍棒をさげていなかったら、その質問を笑ってやるんだがといったような顔をしました。
 そうして、彼はやはり同じことを訊きながら、どんどん旅をつづけて、とうとうおしまいに、或る河の縁へ来ました。そこには幾人かの美しい若い女達が坐って、花環をあんでいました。
『可愛らしい娘さん達、ちょっとうかがいますが、ヘスペリディーズの庭へは、この道を行けばいいのでしょうか?』とその見知らぬ人は尋ねました。
 その若い女達は、花を輪にあんで、お互の頭にかぶせ合って、みんなで楽しく遊んでいたのでした。そして彼等の指には、一種の不思議な力があると見えて、彼等がもてあそんでいると、花はもとの茎に咲いていた時よりも、よけいにいきいきと水気を含んで、色合いも一層あざやかに匂いも更に強くなるのでした。しかし、その見知らぬ人の質問を聞くと、彼等は花をみんな草の上に取り落して、おどろいて彼を見つめました。
『ヘスペリディーズの庭ですって!』と一人が叫びました。『あんなに幾度も失敗したんだから、人間はもうその庭を捜すのはいやになったんだろうとあたし達は思っていましたわ。そして、冒険好きの旅の方、一体あなたはその庭へ行って、どうなさろうというの?』
『僕のいとこに当る、或る王様が、金の林檎を三つ取って来いと僕に言いつけたんです、』と彼は答えました。
『あの林檎を捜しに来る若い男の人達は、たいてい、自分でそれがほしいか、でなければ、好きなきれいな娘さんに上げたがるんだけどねえ、』と今一人の若い女が言いました。『それじゃ、あなたは、いとこの王様がそんなにお好きなんですか?』
『あまり好きでもないんです、』とその見知らぬ人は、溜息をつきながら答えました。『彼は度々僕に対して、つらく、ひどく当るのです。しかし、彼に従うのは僕の運命です。』
『そしてあなたは、百の頭を有《も》った、おそろしい竜があの金の林檎の木の下で見張りをしていることは御存じですか?』と最初口をきいた娘が尋ねました。
『ようく知っています、』と見知らぬ人は静かに答えました。『しかし、小さい時から、毒蛇や竜を相手にすることは、僕の仕事みたいな、いや、ほとんど楽しみみたいなものでした。』
 若い女達は彼の大きな棍棒と、彼の着ているもじゃもじゃの獅子の皮と、それからいかにも勇士らしい彼の手足や身体《からだ》つきを見ました。そして彼等は、この人なら、いかにもほかの男達の力にはとても及ばないようなことでもやってのけようというのも尤もだと、お互にささやき合いました。しかし、それにしても、百の頭を有《も》ったあの竜がいては! たとえ百の命があったとて、そんな怪物の毒牙をのがれる見込みのある人間なんているでしょうか? その娘たちは大変やさしい心をしていたので、彼等はこの勇敢な、立派な旅人がそんなあぶないことを企てて、九分九厘、あの竜の百もある口に食われて、命を捨てるのを見るにしのびない気がしました。
『お帰りなさい、』彼等はみんなで叫びました。『御自分のおうちへお帰りなさい! あなたのお母さまは、あなたの無事息災な姿を見て、うれし涙にくれるでしょう。たとえあなたが竜に勝って帰ったところで、お母さまがそれ以上お喜びになれるわけはないでしょう。金の林檎なんか、どうだっていいじ
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