から滑り降りることにも飽きて来た時、ユースタスは子供達に、その辺の一番大きな吹溜《ふきだまり》に穴を掘らせた。ちょうど穴が出来上って、みんながその中にぎゅうぎゅう詰めになった時、運悪く、屋根が彼等の頭の上に落ちて来て、一人残らず生埋めになってしまった! すぐにみんなは、崩《くず》れた穴の中から、小さな頭をにょきにょきと出したが、そのまん中の、背の高いユースタスの頭は、鳶色の巻毛の中に粉雪がくっついて、白髪のおじいさんのようだった。それから、こんな、すぐに崩れてしまうような穴を掘れなどといったユースタスにいさんをやっつけてしまえというので、子供達は一団となって彼におそいかかって、めちゃくちゃに雪を投げつけたので、彼は逃げ出したくなってしまった。
そこで彼は逃げ出して、森の中へはいって行った。それからシャドウの谷川の縁へ出た。そこでは、彼は、昼間の光もほとんど射《さ》し込まないくらいに、おびただしい両岸の氷雪が蔽いかぶさったようになった下を、谷川がつぶやくように流れて行く音を聞くことが出来た。小さな滝のようになったところは、どこでも、ダイヤモンドのような氷柱が、そのまわりにきらきらと光っていた。それから、ぶらぶらと湖の岸へ来て見ると、彼の足もとからモニュメント山の麓まで、真白の、足跡一つない雪原が見渡された。そして、今はもう日没に近かったので、ユースタスはそこの景色ほど清らかな、美しいものを見たことがないと思った。彼は子供達と一しょでなかったことを喜んだ。というのは、彼等のはち切れるような元気と、ころげまわらずにはいないような活動欲とは、彼の高尚な、深い気分をすっかり追払ってしまったであろうから。そうなったら、彼は(今日も一日中そうだったように)ただ愉快になれるというだけのもので、山間地方の冬の日没の美しさを味うことは出来なかったであろう。
陽もすっかり沈んだ時、われらの友ユースタスは、夕食をするために家へ帰って来た。食事がすんでから、彼は書斎に引取ったが、私の想像では、彼が沈む夕日のまわりに見た、紫や金色の雲をほめたたえるために、一篇の抒情詩か、二三の小曲か、そのほかどんな形式にせよ、とにかく詩を作るつもりであったのだと思う。しかし、彼が最初の詩句もまとめ上げないうちに、扉があいて、プリムロウズとペリウィンクルとが現れた。
『君達、むこうへ行ってらっしゃい! 僕は今君達にかまっていられないんだ!』その学生はペンをもったまま、肩越しにふりかえって、そう叫んだ。『一体ここに何の用があるんだ? 君達はもうみんな寝たと思っていたのに!』
『ペリウィンクル、まあどうでしょう、にいさんがまるで大人みたいな口のきき方をして!』とプリムロウズは言った。『そして、にいさんはあたしがもう十三にもなって、大方自分の好きなだけ起きていたっていいんだってことを忘れているらしいわ。しかし、ユースタスにいさん、あなた気取ることは止《よ》して、あたし達と一しょに客間へ来なくちゃ駄目よ。みんながあなたのお話のことを、あんまりしゃべっちゃったもんで、お父さまもそれが悪い話じゃないかどうか、一ぺん聞いてごらんになりたいんですって。』
『ちぇっ、ちぇっ、プリムロウズ!』と学生は少し腹を立てて叫んだ。『僕はああいう話を大人の前でちょっとやれないなあ。それに君んとこのお父さんは、古典を知っていらっしゃるだろう。しかし別にお父さんの学問をおそれるわけじゃないよ。というのは、それはもうとっくに、古い鞘附《さやつき》ナイフみたいに錆《さび》っちゃっているにきまっているからね。しかし、その代りに、僕が自分の思いつきで、ああした話の中へ入れたすばらしいナンセンスに対して、きっと文句をつけられるよ。それがあるから、ああした話が君みたいな子供達にとって、大変面白くなっているんだけどね。若い時分にギリシャやローマの神話を読んだ五十代の人には、それらの神話の改作者、改良者としての僕の功績は、どうしたって分りはしないんだから。』
『それはみんな本当かも知れないわ、』プリムロウズは言った、『でも来なくちゃいけないことよ! あなたうまいことをおっしゃったけど、そのあなたのナンセンスというのを、少しみんなに聞かせて下さらないうちは、お父さんは本を開こうとなさらないし、お母さまはピアノをあけようとなさらないんですもの。だから、おとなしくついていらっしゃい。』
どんな顔をして見せたにせよ、その学生は、よく考えてみると、古代の神話を現代風につくりかえる彼の立派な腕前はこんなものだということを、プリングル氏の前で実地に見せる機会が出来たことは、いやなどころか、寧ろ嬉しいくらいだった。実際、青年は、二十《はたち》になるまでは、自分の詩や文章を見せることを、どちらかといえば恥ずかしがるものだ。しかし、そ
前へ
次へ
全77ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング