からお互同志に対しても、ひどく不機嫌になっていました。思いきりその不機嫌に耽るために、エピミーシウスはパンドーラに背中を向けて、隅っこの方で、ふくれっ面《つら》をして坐っていました。一方パンドーラは、床の上に身を投げ出して、頭をあの恐しい、いやな箱に乗せていました。彼女はひどく泣いて、胸も張り裂けそうにすすり上げていました。
 不意に、箱の蓋を、中から静かに、低くたたく音がしました。
『あれは一体何でしょう?』とパンドーラは叫んで、頭を上げました。
 しかしエピミーシウスは、そのとんとんという音が聞えなかったか、それともあんまり腹を立てていたので、それに気がつかなかったのでしょう。とにかく、彼は何とも答えませんでした。
『あんたひどいわ、あたしに口を利かないなんて!』とパンドーラは言って、また啜《すす》り上げました。
 またとんとんと音がします! それは妖精の手の小さな拳骨のような音で、軽く冗談半分みたいに、箱の内側をたたくのでした。
『お前は誰だい?』とパンドーラは、少しまた、前の好奇心を出して尋ねました。『だあれ、このいけない箱の中にいるのは?』
 小さな、いい声が中から言いました、――
『蓋をあけてさえ下されば、分りますよ。』
『いや、いや、』とパンドーラは、また啜《すす》り上げはじめながら答えました、『あたし蓋をあけることは、もう沢山だわ! お前は箱の中にいるんでしょ、意地悪さん、いつまでもそこに入れといてやるから! お前のいやな兄弟や姉妹は、もう、一杯世の中を飛び廻っているよ。お前を出してやるほど、あたしが馬鹿だと思ってもらっちゃ困るわ!』
 彼女はそう言いながら、多分エピミーシウスが彼女の分別をほめてくれるだろうと思って、彼の方を見ました。しかし怒っているエピミーシウスは、彼女が今から分別を出したって、少し手おくれだ、とつぶやいただけでした。
『ああ、』とその小さな、いい声はまた言いました、『あなたはわたしを出して下さった方が、ずっといいんですよ。わたしは、あんなお尻に螫《はり》のくっついたような悪い者とは違うんです。彼等はわたしの兄弟や姉妹じゃありません。それはあなたがわたしを一目《ひとめ》ごらんになりさえすれば分ります。さあ、さあ、可愛らしいパンドーラさん! きっとわたしを出して下さるでしょうね!』
 そして、実際この小さな声で頼まれると、どんなことでも何だかことわりにくくなってしまうような、一種の愉快な魅力が、その調子の中に含まれていました。パンドーラの心は、その箱の中から聞えて来る一語々々に、知らず識らず軽くなっていました。エピミーシウスもまた、まだ隅の方にはいましたが、半分こっちを向いて、前よりもいくらか機嫌がよくなっている様子でした。
『ねえエピミーシウス、』とパンドーラは叫びました、『あんたこの小さな声を聞いて?』
『うん、たしかに聞いたよ、』と彼は答えましたが、まだあまりいい機嫌ではありませんでした。『で、それがどうしたんだい?』
『あたしもう一度、蓋をあけたもんでしょうか?』とパンドーラは訊きました。
『そりゃ君の好きなようにするさ、』とエピミーシウスは言いました。『君はもう大変な悪いことをしちゃったんだから、その上もうちょっぴり悪いことをしたっていいだろうよ。君が世間にまき散らしたような「わざわい」の大群の中へ、もう一匹ほかのやつが出て来たところで、別に対したことはありっこないさ。』
『あんた、もう少し親切に口を利いてくれたっていいでしょう!』とパンドーラは、目を拭きながら言いました。
『ああ、しようのない児だねえ!』と箱の中の小さな声は、ずるそうな、笑い出しそうな調子で言いました。『あの児は自分でも、わたしを見たくてならないのは分っているんですよ。さあ、パンドーラさん、蓋をあけて下さい。わたしはあなたを慰めてあげようと思って、大変気が急《せ》いているんです。ほんのちょっとわたしにいい空気を吸わせて下さい。そうすれば、あなたが考えているほど、そうひどく悲観したものでもないということが分るでしょう。』
『エピミーシウス、』とパンドーラは叫びました、『何だってかまわないから、あたし箱をあけて見るわ!』
『じゃ、蓋が大変重そうだから、僕が手伝って上げよう!』とエピミーシウスは叫んで、部屋の向うから駆けて来ました。
 こうして、双方承知で、二人の子供はまた蓋をあけました。すると、明るい、にこにこした小さな人が飛び出して来て、部屋の中を舞って歩きましたが、彼女の行くところは何処でも明るく見えました。君達は鏡のかけらで日光を反射させて、暗いところでちらちらさせて見たことはありませんか? とにかく、この妖精のような見知らぬ人が、薄暗い家の中を愉快そうに飛び廻る有様は、そんな風に見えました。彼女がエピミーシウス
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