スタスは言って、これから仮睡《うたたね》でも始めようかとでもいったように、帽子の庇《ひさし》を目の上までぐっと下した。『あれ位なのは、いや、やろうと思えばもっと面白いのを、一ダースくらいは出来るよ。』
『ねえ、プリムロウズとペリウィンクル、にいさんのおっしゃったこと聞いて?』と叫んで、カウスリップはよろこんで踊り出した。『ユースタスにいさんは、ゴーゴンの首の話より、もっと面白いのを一ダースもして下さるんですって。』
『一つだってするとは言ってやしないよ、この小さなカウスリップのお馬鹿さん!』とユースタスは半分怒ったように言った。『しかし、どうもさせられそうだね。これもあんまり評判を取ったおかげだ! 僕はもっとずっとのろま[#「のろま」に傍点]に生れるか、それとも、天から授った立派な才能を少し隠すかしとけばよかったなあ。そうすれば、静かに、気楽に仮睡《うたたね》も出来たんだが。』
しかし、従兄ユースタスは、私が前にもちょっとそんなことを言っておいたと思うが、子供達が話を聞くのが好きなのと同じように、彼はまた話をして聞かせることが好きなのであった。彼の心は自由な、愉快な状態にあって、それ自身の活動に喜びを感じ、それを働かすのにほとんど外部からの刺戟を必要としなかった。
こうした頭の自発的活動というものは、中年者の、訓練の結果から来た勤勉などとは、まるっきり違ったものだ。というのは、中年時代になると、長い習慣によって、つとめは楽《らく》になり、一日でも仕事を休むと気持が悪いというくらいになる代りに、そのほかのことはぬけがらみたいになってしまうからである。しかし、こんなことはあまり子供達には聞かせない方がいいかも知れないが。
ユースタス・ブライトは、子供がそれ以上せがむまでもなく、次のような実にすばらしい話を始めた。その話は、彼が寝ながら、深々《ふかぶか》と繁った木を仰ぎ見て、秋のおとずれが青葉を悉《ことごと》く純金のように変えてしまった有様をつくづくと目にとめた結果、頭に浮かんだものだった。そしてわれわれのすべてが、始終見ているこの変化は、ユースタスが今から始めるマイダス王物語の中で話したどんなことにも劣らず不思議なことなのだ。
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何でも金になる話
昔々一人のたいへんなお金持がありました。その方《かた》はおまけに王様で、名はマイダスといい
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