ングルウッドの玄関
――話のあとで――
『大変面白いお話じゃなかった?』とユースタスは訊いた。
『ええええ、面白いお話だったわ!』とカウスリップは手をたたいて叫んだ。『そしてあの、仲間で目が一つしかない、おかしなおばあさん達なんて! あたしそんな不思議なことって今まで聞いたことがないわ。』
『でも、そのおばあさん達がやりとりしていた一本の歯のことなら、』とプリムロウズが言い出した、『別に驚くほどのことはないわ。それは義歯《いれば》だったのよ。しかし、にいさんはマーキュリをクイックシルヴァにしてしまったり、また彼の姉妹の話を入れたりなんかして! あんまりおかしいじゃないの!』
『じゃ、あれは姉妹じゃなかったのかね?』とユースタス・ブライトは訊いた。『僕それに早く気がついていたら、彼女を梟なんか可愛がって飼ってるようなお嬢さんに仕立てるんだったなあ!』
『あら、それでも、あなたのお話で霧が晴れちゃったらしいわ、』とプリムロウズは言った。
実際、その話がつづけられているうちに、野山から霧はすっかり消え去っていた。彼等の前に繰りひろげられた景色は、この前に見た時と方角一つ違っているわけでもないのに、まるで新しくつくり出されたもののような気がするほどだった。半マイルばかり先の谷間の窪《くぼ》に、美しい湖水が姿を見せて、その岸辺の林と、向うの山々の頂とをくっきりと映していた。その水面は鏡のように静かに光って、どこにも微風《そよかぜ》の吹くあとさえ見えなかった。その向う岸には、殆ど谷間を横に仕切ったように、ながながと寝そべったような恰好のモニュメント山があった。ユースタス・ブライトはその山を、波斯《ペルシャ》風のショールにくるまった、首のないスフィンクスに譬えた。そして実際、その山の木々《きぎ》の秋の葉は、とても美事で、色彩の変化に富んでいたので、波斯《ペルシャ》ショールの譬えも決してその現実を誇張したものではなかった。タングルウッドと湖水との間の低地の、こんもりとした木森《きもり》や林の縁廻りなどは、山腹の木の枝葉《えだは》よりもひどく霜を受けたと見えて、大抵は金色か焦茶色に紅葉していた。
こうした眺め一杯に快い日の光がさして、それにまつわるかすかな靄《もや》のために、何とも言えない柔味《やわらかみ》とやさしみとを帯びていた。おう、今日こそどんなに気持のいい
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