けていた、今まで財布ほどの大きさしかなかった、小さな、縫取りをした袋が、たちまちメヅサの首がはいるほどの大きさになりました。目にもとまらないほどの早さで、彼はまだ蛇がしきりにうごめいているメヅサの首をつかんで袋の中に押込みました。
『あなたの仕事はすみました、』と静かな声は言いました。『さあ逃げなさい。メヅサを殺された仇を討とうとして、他のゴーゴン達が命がけでかかって来るでしょうから。』
 実際、逃げる必要がありました。というのは、パーシウスがメヅサの首を落す時、いくら静かにやろうとしても、剣を打ちおろす音、蛇がしゅっしゅっという声、それからメヅサの首が海辺の砂の上にどさっ[#「どさっ」に傍点]と落ちる音などがしたので、他の二疋が目を覚ましたからです。彼等はちょっとの間、ねむそうに真鍮の指で目をこすりながら坐っていましたが、一方彼等の頭の蛇は、おどろきと、相手は何ものとも知らないながらも毒気を含んだ敵意とで、みんな棒立になりました。しかしその二疋のゴーゴン達が首のなくなった、うろこだらけのメヅサの死骸と、すっかり逆立《さかだ》って、半ば砂の上にひろげられた金の翼とを見た時に立てた叫びと悲鳴と来ては、本当に、聞いていて身の毛がよだつほどでした。それからまた蛇もです! 百もそろって一斉にしゅっしゅっというものですから、メヅサの頭の蛇もまた、魔法の袋の中からそれに応《こた》えるのでした。
 ゴーゴン達はすっかり目が覚めるとすぐに、がらがらというような音を立てて空中に舞上って、真鍮の爪を振上げ、物凄い牙をばりばりと鳴らし、その大きな翼をあまりはげしく羽《は》ばたきしたので、羽根の毛が幾つか抜けて、ひらひらと海岸の方へ落ちて行きました。そしておそらくそれらの羽根の毛は、今でもそこに落ちているでしょう。ゴーゴン達は高く舞上って、それはもう、誰でも石にしてしまおうというので、物凄くあたりを睨みまわしました。もしもパーシウスが彼等の顔をまともに見るとか、彼等の爪にかかるとかしていたら、彼の気の毒なお母さんは、二度とわが子に接吻する時は来なかったでしょう。しかし彼はゴーゴン達の方を見ないように、よく気をつけました。それに彼は隠兜をかぶっていたので、ゴーゴン達は彼をどっちへ追っかけていいか分らなかったのです。又彼は飛行靴《とびぐつ》を出来るだけ利用することを忘れないで、まっすぐに一マイ
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