く飛んでいる鳥が、もしも彼等の中へスリッパが飛び込んで来たのを見たりしちゃ、びっくりするじゃないか。』
 パーシウスがこの不思議なスリッパを両方共はいてしまった時には、あんまり身が軽くなって、土を踏むことも出来ませんでした。一足《ひとあし》二足《ふたあし》歩いて見ると、これはまたどうでしょう! 彼はクイックシルヴァやニンフ達の頭よりも高く、ぽんと跳び上ってしまって、再び下りて来るのに大変骨が折れました。翼の生えたスリッパとか、すべてこういう高く飛ぶ仕掛などというものは、誰でもそれに幾らか慣《な》れるまでは、なかなか取扱いが容易なものではありません。クイックシルヴァはパーシウスの、自分ではどうすることもできない活発さを面白がりました。そして、まあそう滅茶《めちゃ》に急がないで、隠兜《かくれかぶと》を待っていなくちゃいけないよ、と言いました。
 やさしいニンフ達は、波打った羽毛《はね》の黒い総《ふさ》のついた兜を、いつでもパーシウスの頭にかぶらせることが出来るように、用意していました。そしてこの時、僕が今まで君達に話したどんなことよりも不思議なことが起ったのです。その兜をかぶせられるすぐ前までは、パーシウスは金色の巻毛と薔薇色の頬をして、腰には反《そ》りを打った剣を下げ、腕にはぴかぴかに磨かれた盾をつけた美しい青年として立っていました――その姿は、すべてこれ勇気と、元気と、輝かしい光とで出来ているかと思われました。ところがその兜が彼の白い額にすっぽりとかぶせられると、もうパーシウスは消えてなくなりました! あとはただ空《から》っぽの空気だけです! 隠す力を以て彼を覆《おお》うた兜さえも、もう見えませんでした!
『パーシウス、君は何処にいるんだい?』とクイックシルヴァは尋ねました。
『え、ここですよ、ほんとに!』とパーシウスは落着き払って答えました。しかしその声は、透徹《すきとお》った空気の中から出て来るとしか思えませんでした。『今し方までいたのとまるで同じ所ですよ。あなたは僕が見えないんですか?』
『なるほど、見えない!』と彼の友達は答えました。『君は兜の中にかくれてしまったんだ。しかし、わたしに見えないとすれば、ゴーゴンにだって見えはしない。だから、わたしについて来るがいい。一つ君が飛行靴《とびぐつ》を使う手際を拝見しようじゃないか。』
 クイックシルヴァがこう言うと
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