を訊いてみる元気なんか出ませんでした。そして、フィリーモンがクイックシルヴァを脇へ引張って行って一体どうして古い土焼の壺の中へ牛乳の泉なんかがはいって来たんでしょうと訊くと、クイックシルヴァは彼の杖の方を指さしました。
『不思議のもとはすべてあれなんです、』クイックシルヴァは言いました、『そして、もしもおじいさんにそれが分ったら、一つ教えていただくとありがたいですね。僕にも自分の杖のことを何といっていいか分らないんです。それは、時々僕に夕飯を食べさしてくれるかと思うと、また時々それを盗んでしまったりするというような、変ないたずらを始終やるんです。僕がまあそんな馬鹿気たことを信じるとすれば、この杖には魔法がかかっているとでも言いますかね!』
彼はそれ以上何も言わないで、ずるそうに彼等の顔を見たので、彼等は何だか彼にからかわれているような気がしました。クイックシルヴァが部屋を出て行くと、その魔法の杖は、彼のあとについて、ぴょんぴょん飛んで行きました。二人きりになってからも、その老夫婦は、しばらくその夕方の出来事について語り合って、それから床《ゆか》の上にごろりと横になって、ぐっすり眠ってしまいました。彼等は寝室を客達にゆずってしまったので、そこの板の間《ま》のほかに寝るところはなかったのですが、僕はその板の間《ま》が彼等の心のようにやさしく、やわらかであったことを心から祈ります。
おじいさんとおばあさんとは、あくる朝、小早く起出しましたが、見知らぬ人達も、お日様と一しょに起きて、出発の用意をしました。
フィリーモンは彼等に、ボーシスが牛の乳をしぼって、いろりで菓子を焼いて、それから多分いくつかの産みたての卵を見つけて、朝飯の用意をするまで、も少し出発を延ばすようにと、親切にすすめました。しかし客達は、暑くならないうちに、沢山歩いておいた方がいいと考えたようでした。そんなわけで、彼等はすぐ出発するといってききませんでしたが、その代り、フィリーモンとボーシスに、少し一しょに歩いて、どちらの道を行けばいいか教えてほしいと頼みました。
そこで彼等四人はみんなで、古くからの友達のように話合いながら、家を出ました。老夫婦が知らず識らずのうちに年上の方の旅人と親しくなり、彼等の善良単純な心が、まるで二滴の水が限りない大海にとけ込むように、彼の心にとけ込む有様は、本当に不思議な
前へ
次へ
全154ページ中120ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング