いよく吹いて来て、その箱を沖へ押し出し、こわい大波がそれを上下にゆすぶりました。その間、ダネイは彼女の子供を胸に抱きしめて、今に大きな波が、その泡立った波頭《なみがしら》を彼等二人の上にぶっつけて来やしないかと、びくびくしていました。しかしその箱はどんどん流れて、沈みもしなければ、ひっくり返りもしませんでした。そしてとうとう、日も暮れかかった頃になって、或る島の近くに漂って行ったので、一人の漁師の網にかかって、無事に砂浜の上に引上げられました。その島はセライファス島と云って、ポリデクティーズ王がそれを治めていましたが、この王様はちょうどその漁師の兄弟でした。
 仕合せなことには、この漁師はとても人情深い、真直《まっすぐ》な人でした。彼はダネイとその小さな子とに、たいそう親切をつくし、パーシウスがたいへん強い、活発な、そして武芸に達者な、立派な若者になるまで、彼等の面倒を見ました。これよりずっと前に、ポリデクティーズ王は、この流れ箱に乗って彼の領地へ来た母子《おやこ》の他国者を見ていました。彼は彼の兄弟の漁師のように善良な、親切な人間ではなく、とても悪い人でしたので、パーシウスをあぶない冒険に出して、亡《な》き者にし、その上でお母さんのダネイに対して、何かたいへん悪いことをしようと決心しました。そこで悪者の王様は、ずいぶん暇をつぶして、一体若者が引受けそうなことで、何が一番危険だろうかと考えました。そしてとうとう、彼の注文通り、命にもかかわるようなことになりそうな冒険を思いついて、若いパーシウスを呼びにやりました。
 若者が王宮へまかり出て見ると、王様は玉座に坐っていました。
『パーシウス、』とポリデクティーズ王は、ずるそうに彼にほほ笑みかけながら言いました、『お前も立派な若者になったなあ。お前とお前のよい母親とは、わしの兄弟の漁師からだけでなしに、わし自身にも大変世話になった。だからその幾分なりとも、恩返しするのがいやだとは言うまいな。』
『はい、陛下、』とパーシウスは答えました、『御恩にむくいますためには、命をも惜しみません。』
『うむ、それでは、』と王様は、ずるそうな微笑を唇に浮かべながら、つづけました、『わしはお前に、ちょっとした冒険を頼みたいのじゃ。そして、お前は勇敢な、冒険好きの若者だから、きっとそれを、お前が勲《いさお》をたてるための願ってもない機会にめ
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