をみんな草の上に取り落して、おどろいて彼を見つめました。
『ヘスペリディーズの庭ですって!』と一人が叫びました。『あんなに幾度も失敗したんだから、人間はもうその庭を捜すのはいやになったんだろうとあたし達は思っていましたわ。そして、冒険好きの旅の方、一体あなたはその庭へ行って、どうなさろうというの?』
『僕のいとこに当る、或る王様が、金の林檎を三つ取って来いと僕に言いつけたんです、』と彼は答えました。
『あの林檎を捜しに来る若い男の人達は、たいてい、自分でそれがほしいか、でなければ、好きなきれいな娘さんに上げたがるんだけどねえ、』と今一人の若い女が言いました。『それじゃ、あなたは、いとこの王様がそんなにお好きなんですか?』
『あまり好きでもないんです、』とその見知らぬ人は、溜息をつきながら答えました。『彼は度々僕に対して、つらく、ひどく当るのです。しかし、彼に従うのは僕の運命です。』
『そしてあなたは、百の頭を有《も》った、おそろしい竜があの金の林檎の木の下で見張りをしていることは御存じですか?』と最初口をきいた娘が尋ねました。
『ようく知っています、』と見知らぬ人は静かに答えました。『しかし、小さい時から、毒蛇や竜を相手にすることは、僕の仕事みたいな、いや、ほとんど楽しみみたいなものでした。』
若い女達は彼の大きな棍棒と、彼の着ているもじゃもじゃの獅子の皮と、それからいかにも勇士らしい彼の手足や身体《からだ》つきを見ました。そして彼等は、この人なら、いかにもほかの男達の力にはとても及ばないようなことでもやってのけようというのも尤もだと、お互にささやき合いました。しかし、それにしても、百の頭を有《も》ったあの竜がいては! たとえ百の命があったとて、そんな怪物の毒牙をのがれる見込みのある人間なんているでしょうか? その娘たちは大変やさしい心をしていたので、彼等はこの勇敢な、立派な旅人がそんなあぶないことを企てて、九分九厘、あの竜の百もある口に食われて、命を捨てるのを見るにしのびない気がしました。
『お帰りなさい、』彼等はみんなで叫びました。『御自分のおうちへお帰りなさい! あなたのお母さまは、あなたの無事息災な姿を見て、うれし涙にくれるでしょう。たとえあなたが竜に勝って帰ったところで、お母さまがそれ以上お喜びになれるわけはないでしょう。金の林檎なんか、どうだっていいじ
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