話をして聞かせること以上に好きなことがあるかどうかは疑わしいということである。だから、クロウヴァやスウィート・ファーンやカウスリップやバタカップや、その他彼等の仲間の大部分が、霧の晴れ上がるのを待つ間、何かお話をして頂戴《ちょうだい》と彼にせがんだ時、彼の眼が輝いたことは読者も想像出来るだろう。
『そうよ、ユースタス従兄《にい》さん、』と、笑ったような眼の、鼻がちょっと天井を向いた、十二歳になる利口な少女のプリムロウズが言った。『あなたがよくあたし達を根負《こんま》けさしてしまうようなお話をして下さるのに、朝ほどいい時はたしかにないことよ。一番面白いところへ来て、いねむりをしたりなんかして、あなたに怒られる心配がないんですもの――小さなカウスリップとあたしとは昨夜《ゆうべ》そうだったでしょ。』
『意地悪のプリムロウズ、』と、六つになるカウスリップが叫んだ。『あたし、いねむりなんかしなかったわよ。ただ、ユースタスにいさんがお話していることが見えるかと思って、目をつぶっていただけよ。にいさんのお話は、夜聞いてもいいわ。だって、寝てからその夢が見られるんだもの。それから朝だっていいわ。その時は起きたまま夢のように考えてればいいんだもの。だからあたし、にいさんが今すぐお話して下さるといいと思うわ。』
『小さなカウスリップ、ありがとう、』とユースタスは言った。『いいとも、僕が考えついた一番いいお話をして上げよう。意地悪のプリムロウズに対して、カウスリップがこんなにまで、僕の肩を持ってくれたことだけのためにもね。しかし、みなさん、僕は今迄にあんまり沢山《たくさん》君達にお伽話をして上げたので、少なくとも二度以上しない話なんて一つもないんじゃないかしら。もし僕がその中の一つをまた始めると、何だかあなた方は本当に眠ってしまいそうだね。』
『そんなことはない、ない、ない!』と、ブルー・アイやペリウィンクルや、プランティンや、その他五六人が叫んだ。『私達、前に二三度聞いた話なら、よけいに好きなんです。』
そして、子供達の場合に限って、話というものは、二度や三度はおろか、幾度でも繰返せば繰返すほど、彼等の興味が深くなって来るらしいということは事実である。しかし話の種はいくらでも持っているユースタス・ブライトは、もっと年取った話手ならばよろこんで捉えたかも知れないこうした附目《つけめ》を
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