「今日は皆遊びに来ないのかい」
「エエ、町内のお花見で皆で向島に行くの。だから坊ちゃんはまた明日遊びにおいで」
娘は諭《さと》すように私の顔を覗き込んだ。
間もなく「今日《こんち》は」と仇《あだ》っぽい声を先にして横町から町内の人たちだろう、若い衆や娘がまじって金ちゃんも鉄公も千吉も今日《きょう》は泥《どろ》の付かない着物を着て出て来た。三味線を担《かつ》いだ男もいた。
「アラ、今ちょうど出かけようと思っていたとこなの。どうもわざわざ誘っていただいて済みません」
清ちゃんの姉さんはいそいそと立ち上った。私は人々に顔を見られるのが気まり悪くてもじもじしていた。
「どうも扮装《おつくり》に手間がとれまして困ります。サア出かけようじゃあがあせんか」
と赤い手拭《てぬぐい》を四角に畳んで禿頭に載せたじじいが剽軽《ひょうきん》な声を出したので皆一度に吹き出した。
「厭な小父《おじ》さんねえ」
と柳屋の娘は袂《たもと》を振り上げてちょっと睨《にら》んだ。
どやどやと歩き出す人々にまじった娘は「明日おいで」と言って私を振り向いた。
「坊ちゃんは行かないのかい、一緒においでよ」
と金ち
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