]るのを爲事にして居た事實と、曾て本で讀んだ「沈鐘」の面白さを、そのまま舞臺の上に期待して居るらしい樣子が自分をして一層不安を抱かせたのである。
如何《どう》かしてうまく演《や》つてくれればいい、新しい役者の新しい芝居も決して愚劣なものではないと思ひ知らせてくれればいいと、自分は他人事《ひとごと》でない氣で心配した。
その日は朝のうちに病院に行つて、診察の濟んだのは正午近かつた。病院の近所で認めた食事の終つたのが一時で、それから家に歸つて又出直す時間は十分あるけれども、電車に乘つて立ちづめの不愉快を考へると歸宅する氣はなくなつた。しかし四時開場の時間迄をどうして暮さうかと暫時《しばらく》考へ惱んだ末、先頃入院してゐた間に度々見舞に來てくれた知人の家に行つて、お茶でも頂戴しながら遠慮なく横倒しにならして貰ふ事に決めた。
主人は留守だつたが、心置きない間柄なので、勸められるままに上つて、不自由な身體を氣隨に横にさせて貰ひながら主婦と話し込んで居たが、後から他にお客が來たので、主婦はその日の新聞を自分の目の前に揃へてくれて、そのまま座敷の方に行つてしまつた。
「やまと」新聞に連載されて
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