如く後世を照らす」種類のものかもしれない。
 次に吉村忠雄氏又は次郎生は、自分に忠告して左の如く述べてゐる。故意か粗忽か今度は、
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瀧太郎足下
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 と君の一字が無くなつてしまつた。
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夫れから次にも一つ御尋ねしたいのは君が文章に親んで居られるのはあれは好きからに、弄んで居られるのか、或は本職的に沒頭されて居るのか、余は何れでも宜しいのであるが、右とか左とかそれに依つて些か注文があるのである。
強《あなが》ち君に對して興味を棄てよと云ふのではないが、内々に好きからに筆を執つて樂んで居るといふのならば餘り駄作は公表せぬが宜《よい》ではないか、些か自ら文筆に得意なといふので鼻にかけるのは宜ろしくない。時々の創作物を可然《しかるべき》先生なり先輩なりに添削して貰つて樂んで居ればよい譯である。何も公表して見せびらかす必要はあるまい。それから本職として居るといふならば誠に情けないことだと思ふ。先きにも一寸述べた通り世間で左《と》や右《か》う云ふからどんなかと思つて居たらまだあんなものを書いて居る!五年も七年も其途に親んで居て夫れでまだ彼れ位のものだとすれば一層の事止した方が宜しからう。それよりも君が專門に修めたものでも確乎《しつかり》とやつたが何《ど》れ位國家を益するか知れやせぬ。二兎を追へば一兎をも得ずで兩方とも半噛りになつてしまふ。
君が先年笈を海外に負ひたるも何の爲であつたか、徒らに「汽車の旅」を書く爲ではなかつたらう。必ずや其修め得た處のものを以て大に活動せんが爲であつたらう。今や國事は日々に多端で三文文士の御託《ごたく》を聞くよりも一人でも多くの實際家を必要として居る。思想界の如きは少數の天才肌の人に任せて置けば宜しい。趣味を持つて居るとか多少の文才があるとか云つて、レベル若くはレベルより稍々上へ出た位の者が吾も吾もとウヨウヨ集まる必要はない。思想界の明星となつて國民を左右するのも宜いが、目下の急務はハンマアを能く使ふ人を國家はより多く要望して居る。思想界の中でも君のは小説や隨筆の樣なもので目下大して缺乏して居るものでもない。
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 論旨は益々亂暴になつて、攻撃されて居る筈の自分は寧ろ喜劇を見てゐるやうな笑ひを止める事が出來ないのである。
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瀧太郎君足下

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