これは事實の面白さを羅列する忙しさに、作者の理解同情が、物語らるゝ事象の中に、滲透し切れなかつた結果であらう。しかしそれも「うつぎ」に比べての事で、他の作品の中では、矢張り自分の好む物のひとつに數へて憚らない。
自分が最もつまらない、馬鹿々々しい作品だと思つたのは「横町の光氏」である。低級子女が見て光氏とする横町の若い人を、夫人も亦同じ程度に肯定してゐるのが馬鹿々々しい。且その男の口吻の氣障な事は、當然カリカチュアとして現さるべきであつたと思ふ。こゝに又不幸にして夫人の惡趣味の流露を見た。
「堂島裏」も「横町の光氏」に見る同じいやみを感じるけれど、この方は作品としての纏りのいゝ事が、彼に比して遙に勝つてゐる。
「鷹の夢」は久保田万太郎氏が、岡田夫人の噂が出ると、必ず「新緑」と共に引張り出して、誇大に感服して見せる作品であるが、それはたま/\久保田万太郎氏の淡い趣致を喜ぶ獨特の好みを表白したものとして、久保田氏を評する時により多く面白い證明のよすがとなる可き話《はなし》で、作品としては可も無く不可も無い、極めて平凡なものだと思ふ。
自分は最後に、上來述べて來たところを綜合して、夫人の
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