して居ます。貴方が勞役に行く。それもいいでせう。貴方がそれほどに仰有《おつしや》るなら、私も強《しひ》て反對はしません。私はただ貴方の病氣を心配するんです。毎晩の樣に不眠症にかかつて、ねつけばすぐ盜汗《ねあせ》がすると云ふぢやありませんか。熱も折々出るさうだ。そんな體で勞役に行つたらどうなるかわからないぢやありませんか。そこで金錢でこの苦難が逃れられるものなら、何とか工夫をして見たい。その工夫が大した犠牲を拂はないでついたら、貴方の身體は私に任せてくれていいでせう。どうしても出來なかつたら、その時は貴方の考へ通りに私は默つて見てゐませう。」男は云ひ終つて立ち上つて、
「話はそれで一段落だ。」と云つた。それは女の心を轉じさすには恰好の調子の詞《ことば》であつた。
翌日亨一は金策の爲東京へ出かけた。一二の同志は疑ひ深い目付をして此話を迎へたきりであつた。
「政府から出して貰つたらいいでせう。」と云はんばかりの顏色をして居る。買收云々のことがまだ彼等の念頭に一抹の疑圖を殘して居るのであつた。亨一は矢鱈《やたら》に激昂した。此の汚名は何《いづれ》の時にか雪《すゝ》がねばならぬと思つた。それ
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