的な響きを持っている獄死という言葉が、今は冷酷な現実として自分自身に迫りつつある。今はもう不可抗的な自然力と化した病気の外に、磐石《ばんじゃく》のような重さをもってのしかかっている国家権力がある。ああ、俺もこれで死ぬるのかと思いながら、今までここで死んで行った多くの病人たちの口にした、看病夫の持って来てくれる水飴のあまさを舌に溶かしつつ太田の心は案外に平静であった。俺たちの運命は獄中の病死か、ガルゲンか、そのどっちかさ、なぞとある種の感激に酔いながら、昔若い同志たちと語り合った当時の興奮もなく、肩を怒らした反抗もなく、そうかといってやたらに生きたいともがく嗚咽《おえつ》に似た心の乱れもなく、――深い諦めに似た心持があるのみであった。この気持がどこから来るか、それは自分自身にもわからなかった。その間にも彼は絶えずもうしばらく見ない岡田の顔を夢に見つづけた。言葉でははっきりと言い現わしがたい深い精神的な感動を、彼から受けたことを、はっきりと自覚していたためであったろう。
太田にとっては岡田良造は畏敬《いけい》すべき存在であった。ただ、この言語に絶した苛酷な運命にさいなまれた人間の、心のほ
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