しろ身体が生きながら腐って行くんですからね。どうもこいつには二通りあるようです。あの四人組の一人のおとっつぁん、あの人のように肉がこけて乾《ひ》からびて行くのと、それはまだいいが、ほんとに文字どおり腐って行く奴とです。そしてどうもわたしのはそれらしいのです。それでいて身体には別になに一つわるいところはないのです。胃などはかえって丈夫になって、人一倍よけいに食うし……、餓鬼です、全くの餓鬼です。業病ですね。何という因果なこったか……」
急迫した調子で言って来たかと思うと、バッタリと言葉がとだえた。どうやら泣いているらしい。いい加減な慰めの言葉などは軽薄でかけられもせず、いいようのない心の惑乱を感じて太田はそこに立ちつくしていた。ちょうどその時靴音がきこえ、その男の監房の前に来て立ちどまり、戸を開《あ》けて、面会だ、と告げたのである。
男は出て行った。どこで面会をするのであろうか。気をつけて見ると、この病舎には別に面会所とてないのである。庭の片隅のなるべく人目にかからない所ですますらしいのである。面会に来たのは杖《つえ》をつき、腰の半ば曲った老婆であった。黄色い日の弱々しく流れた庭の一
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