があつて、餘りにも昔のまゝなのにむしろ驚かされるのであつた。外貌のむごたらしい變化に比べて少しも昔に變らぬその調子は鋭く聞く者の胸を打つのである。
「病氣は……」太田はそれを言ひかけて口ごもりながら、思ひ切つて尋ねた。「身體はいつ頃からわるいんです。」
「さう、始めて皮膚に徴候が現はれたのは捕まつた年の春、しかし其時にはどうしたものか直に引つこんで了つた。その時には別に氣にもとめなかつたんです。それから控訴公判の始まつた年の夏にはもうはつきり外からでもわかるやうになつてゐてね、その頃にはもうレプロシイの診斷もついてゐたらしいのです。」
「外の運動も隨分變つたやうですね。」
岡田の言葉の一寸切れるのを待つて太田は今までの話とはまるで無關係な言葉を突然にさしはさんだ。病氣の事に餘り深くふれるのが何とはなしに恐ろしく思はれたのである。そしてこゝへ來てから偶然に耳にしたニユースのやうなものを二つ三つ話した。しかし話をしてゐるうちに、昔の岡田ではない、今日、もうさうした世界には全然復歸する望みを失つた彼に、さういふ事について、得意らしく話してゐるやうな自分自身が省みられ、彼はすぐに口をつぐんで
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