お前たちはどつちをとるか、といふ質問を他の三人に向つて發するのである。老人《としより》はにやにや笑つて答へないが、若者の一人が眞面目くさつて考へこみ、多少ためらつた末に「そりや、ごつつおう[#「ごつつおう」に傍点]の方がええ」と答へ、「わしかてその方がええ」ともう一人の若者がそれに相槌を打つのを聞くと、その男は怒つたやうな破れ鐘のやうな聲を出して怒鳴るのであつた。「なんだと! へん、食ひものの方がいいつて! てめえたち、こゝへ來てまでシヤバに居た時みてえに嘘ばつかりつきやがる。食ひものはな、こゝに居たつて大して不自由はしねえんだ、三度々々食へるしな、ケトバシでも、たまにやアンコロでも食へるんだ、……女はさうはいかねえや。てめえたち、そんなことを言ふ口の下から、毎晩ててんこう[#「ててんこう」に傍点]ばかししやがつて、この野郎。」それは感きはまつたやうな聲を出して、ああ、女が欲しいなアと嘆息し、みんながどつと笑つてはやすと、それにはかまはずブツブツと口のなかでいつまでも何事かを呟いてゐるのであつた。
 最後の一人はもう五十を越えた老人でふだんは極く靜かであつた。顏はしなびて小さく眼はしよ
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