扉を細目にあけ、その間からからだを半ばなかへ入れて、さぐりを入れるやうな言ひ方をするのだ。聲もさうなら目つきもさうであらうと古賀は思つた。彼が何の用を持つて訪れたかを古賀は知つてゐた。ふつと古賀はなんといふことなしに(原文十四字缺)を心に感じた。彼はうなづいたきりだまつてゐた。
「お母さんは面會にいらつしやいますか?」
古賀はなほもだまりつゞけてゐた。
「一度公判前にお逢ひになつてゆつくりお話なすつたらいかゞですか。私もいろ/\おはなししてあげませうが。」
古賀はかんたんに禮の言葉を述べたきりでその後は一言も口をきかなかつた。目の見えない彼は、手持ぶさたな相手の態度にも無關心をよそほひ平氣でをれるのであつた。――やがて教誨師は出て行つた。
翌日は呼び出されて典獄に逢つた。
典獄の態度は教誨師のそれよりもずつとあらはであつた。すべてははつきりとしてゐた。彼はまづ古賀の「心境」をたづね、母の近況をたづねた。それから古賀に向つて一つの勸告をした。そしてさすがにこれはやゝ遠まはしにではあつたが、その勸告を入れるならば、保釋出所は容易であらうといふことをほのめかして言ふのであつた。典獄は
前へ
次へ
全59ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島木 健作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング