いて訴へる機會を與へ、いはゆる轉向を彼に語らしむるやうに仕向けたのかも知れない、それは不幸な古賀に對する裁判長の好意であつたのかも知れない、とも考へられるのであつた。しかし古賀は、「はい」と答へたまゝ彼の受けた不幸についてはつひに一言も言はなかつたのである。心境は? と問はれた時には、過去において(原文十二字缺)と思ふといひ、今日はすでに(原文三十四字缺)と答へたのであつた。行動の出來ない身で依然その思想を固持するとは被告らの理論體系からすれば矛盾ではないか? とつつこまれたのに對しては、(原文五十二字缺)古賀はそれらの答辯をかんたんに落ちついた低聲で答へ、そして公判は終つた。
古賀の母はその日、やはり傍聽に來てゐた。あれが良吉かえ? あれが良吉かえ? といつて手錠編笠の姿で公判廷に這入つてくる古賀を不思議なものを見るやうに見つめながら、何度も何度も側の同志にきいてゐた。そしてあれが古賀にちがひないといふことを口ごもりながら、その同志が告げると、信じがたいと言つたふうにいつまでも小首をかしげてゐるのであつた。公判が終り、閉廷が宣言され、古賀がもう歸るのだと言ふことがわかると、その時ま
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