げさに考へあまえた氣持でゐるかも知れないが、もつと普通でしかもはるかに(原文七字缺)がどれほど多く世間には行はれてゐることか。そしてさういふ不幸の根を(原文十二字缺)ためにはじめたお前の仕事ではなかつたのか。それにいまさら土壇場になつてやれなんの、やれかんのと。……
古賀は恥ぢた。人氣のない闇のなかで彼はひとり心で赤くなつた。
つひに古賀はある程度に心を決するところがあつた。しかしその決定的な態度といふものを山田辯護士にすら告ぐることなく彼は公判廷にのぞんだ。彼には自信がなかつたのである。きめておいても最後の場合、どうなるかも知れはしないといふ不安が絶えずあつたのである。そして一度思ひが年老いた彼の母の身の上に走るとき、その不安がますます大きなものになつて行くことを古賀は感ぜずにはゐられないのであつた。
古賀は母にはもう長いこと逢つてゐなかつた。母はその年、彼の捕はれた事實を知つて郷里から出て來、遠縁の家に身をよせてこの町に滯在してゐたのである。古賀の失明の事實は役所の方から一應知らせたらしい樣子であつた。母は幾度も面會に來たが、失明後の古賀は頑固に拒んで逢はずにゐたのである。逢
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