うに切實な問題が、さらにもうひとつ急速な解決を迫つてきた。公判廷においてどういふ態度をとるべきか、從來自分の守つて來た考へにたいしてはどうでなければならないかといふ問題である。古賀は懊惱し、息づまるほどの苦しみにさいなまれた。食慾は減り見るかげもなく痩せはてて久しぶりで逢つた山田辯護士が聲をあげておどろいたほどであつた。理窟の上からはしかしこの問題は、大して考へるまでもなくすでに早く古賀の頭のなかで解決されてゐた。ただ明かにわかつてゐることを踏み行へないところに懊惱があつたのである。くりかへしくりかへし古賀は自分に問ひ自分に答へてみるのであつた。――さうではないか? なぜといつて自分はもちろん一定の確固たる理由があつてその立場をとるにいたつたものである。ところでその後自分は思ひがけない不幸な目にあつた。だが、さうした個人的な不幸といふものが一體なんであるか? 人がどういふ不幸にさらされねばならないか、それを誰が知らう。どんな慘めな目に逢はうとも、自分をしてさうした立場をとらしむるにいたつた原因が除かれない限りは自分はその立場を棄てえない筈である。棄てたといへばそれは自らをあざむくもので
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