いふものはみぢんにくだけてとび、自分が今までその上に安んじて立つてゐた地盤ががらがらと音を立てて崩れてゆくことを古賀は自覺せずにはゐられなかつた。えらさうなことを言つて強がつてゐたつてだめぢやないか、何もかも叩きつけられないうちのことさ、と意地わるくせゝら笑ふこゑを古賀ははつきりと耳近くきいた。ただただ與へられた運命の前に頭をたれてひれふすよりほかにはなかつたのである。今までは、どんな場合にもつねに一つの焦點を失つてゐなかつた。内から外から彼を通過するあらゆるものはみんなその焦點で整理され統一された。今はさういふものがなくなつてゐる。だがさうかといつて、苦しまぎれになんらかの觀念的な人生觀といふものを頭のなかにつくりあげ、そこに無理に安住しようとしたところでそんなことができる筈のものではない。古賀はよるべのない捨小舟のやうな自分自身を感じた。悲しいときには子供のやうな感傷にひたり切つて泣き、少しでも心のらくな時にはよろこび、その日ぐらしの氣持で何日かを送つた。彼はまだ打撃をはねかへし、暗のなかに一筋の光を見るだけの氣力をとりかへしてはゐなかつたのだ。從來、自分の立つてゐた立場にひとまづ
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