盲目
島木健作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)房《へや》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うの[#「うの」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こつち/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 その日の午後も古賀はきちんと膝を重ねたまゝそこの壁を脊にして坐つてゐた。本をよむことができなくなつてからといふもの、古賀には一日ぢゆうなにもすることがないのだ。終日ぽつねんとして暗やみのなかにすわつてゐるばかりである。時々彼は立上つて房《へや》のなかを行つたり來たりする。わづか三歩半で向ふの壁につきあたるやうな房のなかなのだ。一分間に十往復とすると、一時間には六百囘、距離にすると、一里ちかくになる、などと考へながら古賀はあるく。しかしぢきに頭のなかがぐるぐるとまはつてくる。そこで彼はまたすわり、こんどは塵紙を引きさいて紙縒《こより》をよりにかゝる。途中で切らないやうにこの粗惡なぼろぼろな紙で完全な紙縒をよるといふことが、しばらくのあひだ彼をよろこばせるのだ。指先がひりひりするや
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