陷入つた(原文六字缺)にとらへられた古賀は、(原文二十二字缺)を迎へたのであつた。とらへられた始終のいきさつについては、今(原文二十一字缺)はある。古賀は少くとも自分一個に關するかぎりヘマはやらぬとの自信を持つてゐたのだが、組織の仕事のことゆゑ、ほかからくる破綻といふものは拒ぎきれぬ場合も多いのであつた。他の同志がつくつた場所が、(原文七字缺)とおもひながら出かけても行かねばならず、さういふとき、自分の身の安全をばかり考へてゐるわけにはゆかぬ。思ひつきの便宜主義、――それが古賀の場合、(原文二字缺)を來たした結局の原因であつたが、だがそれも、經驗のすくない若い組織のことゆゑ、やむをえないことであつたらう。さうしたことを今さらおもひかへしてみたとて何にならう、(原文二十一字缺)のだ。古賀はその確信に安んじ、こゝへ來てからの彼は、たゞひたすらに(原文八字缺)はづかしくない態度をとることにのみ心を碎いたのであつた。彼の心の構へはきまつてをり、腹の底は案外におちつきはらつてゐた。古賀はかねてから、腹といひ度胸といふのも、畢竟は時々刻々に變化してやまない外界にたいする、あるプリンシプルのうへに立つたうへでの自己の適應能力にほかならぬ、と信じてゐたのであるが、數年このかた、多くの先輩である同志たちが、次々に連れ去られて行つた、その度ごとにうけた激動と、その激動が次第に沈靜してゆく過程のうちにあつて、さういふ場合に處する彼の心構へも自然にある程度まではできあがつてゐたものであらう、ことさらに氣張り、堅くなつた頑張りではなく、冷やかな落ちつきが、意地のわるいやうなふてぶてしさが、古賀の心の基底をなしてをつたといへる。さうして彼はまたさういふ心を意識してはぐくみそだてたのであつた。事實またそのためには、(原文七字缺)といふものはほかに見出しえようとはおもはれないのだ。(原文五字缺)を毎日目のまへに見せつけられれば見せつけられるほど、それを肥料として(原文十二字缺)心が一日々々(原文二字缺)してゆくのである。あらゆるあまいものを嘲笑し、あたゝかいものをしりぞけ、喜怒哀樂の感情を忘れはてた人のやうな假面のやうな表情で彼はそこに座つてゐた。だがその無表情な假面のかげにかくされてゐる無言の(原文六字缺)人々は容易に見拔くことができたのである。やがては恐ろしさといふものを知らない人間にまで鍛へ
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