のである。ここには動力線が引かれて、日立の一馬力のモーターが※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉する。農業用機械には内地には見られぬものが多い。このあたりの農家は普通一戸分を三町五反歩とするが、農具に固定してゐる金は平均二千圓ぐらゐであらうといふ。S君の家では六町餘から作つてゐるから三千圓を越すといふ。六町餘の田を作る働き手はわづか四人で、しかも三人は女手なのだからさまざまに工夫された農具の助けを借りなくては間に合はぬ。
しかも氣候の影響ですべての作業の期間は非常に短縮されてゐるのだ。農具のことになるとS君は不平の面持で訴へはじめた。
試驗場やその他の役人達は此頃しきりに我々が機械を買ひすぎるといふ。北海道の百姓が貧乏するのは一つにはそれが原因だといふ。それはさうかも知れないが我々だつて何も道樂に機械を買ふのではないのだ。いかにも農具の中には一年に一週間か十日しか使はぬものだつてあるが、それだつてみなそれぞれに無くては適はぬものである。次々に新しく農具が改良され、誰もそれを買はぬのならいいが、幾人かでも買つて使ふものがあるとすれば他のものも皆仕事に負けまいとして無理をしてで
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