東旭川村にて
島木健作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)旭川《あさひがは》へ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青森縣|木造《きづくり》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉
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 私は旭川《あさひがは》へ來て友人のMに逢ひ、彼の案内で東旭川《ひがしあさひがは》村を訪ねた。九月も十日すぎのある日だつた。
 Mはほとんど十五年來の友人である。彼とは今度は三年ぶりで逢つた。何年に一度か、どつちかが思ひがけない、といふ逢ひ方で逢ふ。しかし話し出すと昨日まで毎日顏を合してゐたとでもいふ風で、水のやうな淡さである。それだけ深く心に通じてゐるものがあり、愛情も泌みるおもひだ。旅の行く先々にこのやうな友人を今も持つてゐる私は倖せである。私が別に云ひ出さぬうちに、彼は、「村へ行つて見ようか」と立ち上り、「降らねばいいが」と云つて窓から空を仰いだ。
 村行きの電車内に私と向ひ合つて坐つたMを見て、東大出
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