貼つてある。斜に貼つてあるので「赤化思想排撃大演説會」の文字と、その肩にならんでゐる辯士たちの顏ぶれまでがよく見えた。東京から來た二三の名士にならんで、石川その他二人の名がまじつてゐた。いつもの年ならあのポスターの代りにもうメーデーのそれが貼られる頃だが、と杉村はちよつとそんなふうに考へた。さうしたものが公然と貼られてゐる事實は、その後の組織の運命をもの語つてゐるやうであつたが、それを見、今の自分をふりかへつて見ても、すべてが終つたとの感じはしなかつた。むしろ反對の、まだ踏み出したばかりだとの感じの方が強かつた。杉村はさつきからずうつと大西たちの姿をそこにあるもののやうにはつきりと眼に見つゞけてゐたのである。うながされて彼は暗い部屋につゞく階段を下りて行つた。[#地から1字上げ](一九三五年六月・中央公論)



底本:「島木健作作品集 第四卷」創元社
   1953(昭和28)年9月15日初版発行
初出:「中央公論」中央公論社
   1935(昭和10)年6月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Nana ohbe

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