れた机や書棚や、雜然と積みあげられた書類の山や、何から何までが妙にカサカサとして味氣なかつた。やはり身體が少し弱つてゐるのであらう。急に氣がゆるみ、何度目かの疲れが襲つて來、上衣を脱いだそのまゝの姿で、杉村は部屋の隅の寢床に横になつて眠りこんだ。

 敗戰後に當然來るべきものがしかし案外に早く來た。――それから三日目の午後、杉村はある村の選擧報告の演説會に出かけて行つた。そこでの演説を終へ、他の村へ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]らうと道へ出かゝると、五人の紳士がそこに待ち伏せてゐて杉村を何處かへ連れ去つて了つたのである。その場では杉村一人であつたが、その後二三日のうちに書記たちは半分に減り縣本部や各地區の事務所はガラ空きになつた。
 ――がたんと厚い扉のしまる音がし、ついで鐵と鐵のすれ合ふ音がし、消えて行く靴音を耳で追ひながら、その部屋のまん中に崩れるやうに横になつて、杉村はとろとろと何時間か眠つた。――田舍の留置場は人數も少く規則もルーズだつた。一眠りして起きると、ああ、こゝへ來たんだつけ、とあらためて氣づき、小さな窓から日の傾きかげんを測るともう日暮れにほど近い時刻らし
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