やらうとはしないんだ。今度の選擧の慘敗の原因だつて、今となつては君らにもちやんと氣づいてゐる筈だ、それを知つてゐながら、以前にいつた言葉の手前、率直に認めるほどの勇氣がないんだ。敗けた原因はほかにはない、そもそもの出發點にあるのさ。島田信介を候補者に立てたといふ點にあるのさ。島田信介だなんて、そりや黨の幹部でもあり、えらい人間でもあらう、けど君、ありや全くの他國人ぢやないか。島田はこの縣に何のゆかりがある? この地方の人間と何の馴染がある? そんな人間を立てたかて勝つ見込みのないのは最初からわかつとる。だからわしらここにゐるものの大半はそれに反對したんだ。そしてあくまでも土地のものを立てることを主張し、この地區のみならず、縣全體としてももつとも古い農民運動の功勞者として石川剛造君を推薦したんだ。」そこで彼はちらりと横目ですぐ側の石川剛造の顏を盜み見た。石川は依然身動きもせずぢつとこつちを見つめてゐる。「それを君らが日和見主義だとか、當選第一主義だとかなんとかいつて反對してさ、阿呆らしい、當選を目的にしない選擧運動がどこにありますかい。そして書記會議で何から何までお膳立てをして中央委員を
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