四人が火鉢を圍んでゐる。
「君、そりやどうしたんだ!」
 思ひもかけなかつた事柄が人々と杉村とを相語らしむるきつかけとなつた、はげしくいつてしまつたあとで、杉村はさういふ自分の不幸を思つたが遲かつた。暗默の敵意はこの偶然のつまらない事柄をなかだちに、今は公然のあらはなものになつて了つたのである。
「組合の事務所で酒をのむことだけはうやめたらどうかね、ええ、君、事務所でだけはお互ひにだらしのないまねはしたくないんだ。一般組合員にたいする影響も考へなくちやならないからね。事務所で何か祝ひ事でもした時はそりや別だ。しかし今日はみんな會議に集まつたんぢやないか。」
「ああ、ああ、わかつとりまさあね、そななことあんたにいはれんかて。」
 憎々しげにそのうちの一人がいひ放つた。顎をつき出しうすら笑ひをさへうかべて。何といふ不貞腐れかげんであらう。杉村はさすがに周章し、狼狽した。從順な飼犬がたちまち牙をむき出すのに逢つたおどろきであつた。
「わしらは今日は何も會議に集まつたんぢやありません。祝ひ事に集まつたのやよつて一杯くんどるんぢや。」
「祝ひ事?」
「さうや、」
 にやりと笑ひ、氣を持たせるやう
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