言ひ合したやうに膝を立ててその上にうつぶしてゐるもの。長々と横たはり仰向けになつて眼を閉ぢてゐるもの。どれもこれもぢつと動かずにゐる彫像のやうな彼らの姿態は、そのまま過去一ヶ月の餘にわたる精根を傾けつくしてのはげしい生活を物語り顏である。口を開くもものういほどに疲れ切つてゐるのであらう、だがそれにもかゝはらずこの部屋の隅々にまでも行きわたつてゐる何か張り切つたこのけはひはどうだ。事實、ものいはぬ彼らの胸はたつた一つの共通の期待に、――のるかそるか當面のすべてをそれにかけて悔いなかつたその期待にいまふくれ上り、はち切れんばかりになつてゐるのだつた。何か言ひ出してみることはこの際妙に控へられる氣持だつた。かうしてゐるあひだにも時はしだいに迫りつゝある。その最後の時のために、逸り猛つてくるものをぢつと引き締め、溢れ來る感情をひた押しに押さへてただもだしてゐるのである。はじめからあてには出來ぬ期待なら、氣も樂であり、問題はなかつた。事實最初は力の限りたたかつて見ること自體に意義をおき、必ずしもそれの勝敗に執着はなかつたのである。だが中頃状勢は思ひもかけぬ好轉を見せ、時が迫つて來るにつれて阻むも
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