を覚醒せねばならぬ時代であろう。区々たる藩閥の巣窟に閉籠《とじこも》り、自家の功名栄達にのみ汲々《きゅうきゅう》たる桂内閣ごときでは、到底、永遠に日本の活力を増進せしめる事は出来ない。
(七)狡猾船頭
思わず理屈を捏《こ》ねたが、この時は理屈どころではない。疲れて足を引摺《ひきず》り引摺り、だんだん山道に差し掛かる。道は少しも険阻ではないが、ただ連日の大雨《たいう》のため諸所《ところどころ》山崩れがあって、時々頭上の断崖からは、土石がバラバラと一行の前後に落ちてくるには閉口閉口。一貫目位の巌石《がんせき》がガンと一つ頭へ衝《あた》ろうものなら、忽《たちま》ち眼下の谷底へ跳ね飛ばされ、微塵《みじん》となって成仏する事|受合《うけあい》だ。ああ南無阿彌陀仏南無阿彌陀仏。現に久慈川《くじがわ》のとある渡船場《わたしば》付近では、見上ぐる前方の絶壁の上から、巨巌大石《きょがんだいせき》の夥《おびただ》しく河岸に墜落しているのを見る。この絶壁下には先頃まで鉱山事務所があったのだが、轟然《ごうぜん》たる山崩れと共にその事務所はメチャメチャになり、一人の技手は逃げ損って蛙のごとくに押潰
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