官庁が無い事でもない、狭軌鉄道が広軌鉄道にならぬ事でもない、実に国人《こくじん》意気の沈滞と民心の腐敗とである。民心の腐敗その極に至れば、国家は遂に見苦しく自滅する他《ほか》はないのだ。今日我国は貧乏にして生産力に乏しいというが、富力を増し生産力を高める余裕はまだまだ沢山ある。ブラブラ遊んで暮らすのを誇りとしている一部上流社会の奴原《やつばら》を初めとし、ろくろく食う物も食えぬくせに、汗を流して努力する事を好まぬ下等人士に至るまで、惰眠を貪《むさぼ》りつつ穀潰《ごくつぶ》しをやっておる者共は、今日少くとも日本国民三分の一位はあるであろう。願《ねがわ》くは何か峻烈《しゅんれつ》なる刺激を与え、鞭撻《べんたつ》激励して彼等を努力せしめたならば、日本の生産力もまた必ず多大の増加を見る事は疑いを容《い》れまい。こんな事は民力の発展などは眼中にない愚劣政治家共に話したとて分るまいが、真に国家の前途を憂うる人士は、大いに沈思熟考せねばならぬ問題であろうと思う。実に今日は、レオニダスのごとき大政治家|出《い》づるか、日蓮のごとき大宗教家現われ、鉄腕を揮《ふる》い、獅子吼《ししく》を放って、国民の惰眠
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